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認知高齢者に対する監督義務 [法律に関する問題]

  先般、在宅介護を受けていた高度の認知症高齢者が徘徊し、鉄道の駅構内の線路に立ち入り、列車に衝突したという事件で、鉄道会社が高齢者の妻や別居している長男に損害賠償請求したという事案の判決がありました。地裁では、妻や長男の責任を認めましたが、高裁では、同居していた妻については、監督義務違反があるとして責任は認めたものの、長男の責任は認めませんでした。

 これらの判決は、マスコミで広くとりあげられたので、ご存じの方も多いか、と存じます。その取り上げ方は、個々のマスメディアごとに異なってはいましたが、高齢者に対する監督義務を同じ高齢者の妻に負わせる、ことについて、批判的な論調もありました。

 高裁判決は、妻については、現に夫婦が同居して生活している場合には、夫婦としての協力扶助義務の履行が法的に期待されないとする特段の事情がなければ、精神障害者となった配偶者に対する監督義務を負うというものです。別居している長男に対しては、成年後見の申立てがされれば、成年後見人に選任される蓋然性が高かったものの、成年後見人ではなく、監督義務者ではないと判断したものです。

  同じ高齢者である妻について、事実上、裁判所が求めているような監督が可能なのか、介護の実体を把握していない判決ではないかとの批判もあり、意見も色々でており、それについても私も意見がありますが、私がここで問題にするのは、長男に対する判示部分です。

  長男に対しての判示からすると、裁判所は、長男が成年後見人に選任されていた場合は、監督義務者としての責任を負うと、考えているようです。私達は仕事上、成年後見人に選任されることがありますので、人ごとではありません(親族後見人ではなく、第三者後見人ということになります)。

 一般的には、成年後見人は、法定監督義務者とされていますから、監督義務を怠らなかったことを証明できない限り、責任を負いますので、ある意味、当然の判示ではあります。しかし、高齢者後見の場合、その状況がきわめて多様で、他害の可能性を一般的に予測することもできないこともあり、共同生活を営んでいるような親族後見人であれば、ともかく、共同生活を営んでいない後見人については,限定的に考えるべきではないか、という見解もあります。学者のなかには成年後見人について「法的監督義務者性を否定し、監督者責任を免除すべし」という見解を述べている方もいます。

 私としては、成年後見人には、身上配慮義務はありますが、それは、介護という事実行為をする義務ではなく,被後見人のために法律行為をする義務(諸契約の締結等)を基本としているもので、その限度で注意義務を負っているものであり、被後見人全般の行動について監督義務を負っているということは問題ではないか、と考えております。それで、成年後見人の監督責任は「被後見人が何らかの危険行為を行うことが具体的に予測されるにも関わらず、可能な防止措置をとらなかった場合」等に限定して判断されるべきではないか、と考えています。いずれにしても、成年後見人が、第三者に対する責任を負うことがあり得ますので、弁護士会では、私たちが一定の損害保険(高額です。)に加入していることを選任の要件としています。

 なお、上記の判決は、鉄道側にも、監視が十分でなく、フェンス扉が施錠されていないなどの事実もあったとして、損害額の五割について、減額しています。


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